幸福の蜃気楼と不幸のリアリティ

幸福は蜃気楼のようなもので実体がないけれど、不幸は無視できないほどリアルだ。
これはショーペンハウアー先生が違う言葉でおっしゃっているけれど、
幸福と不幸はまったく釣り合わない。

不幸な時は、不幸だと意識しなくてもわかるけれど、
幸福なときは幸福に感謝しないと、自覚できないくらい
ゆらゆらした蜃気楼のようなものだ。

虎舞竜の歌った「ロード」の歌詞じゃないけれど、
「なんでもないようなことが幸せだったと思う」という
言葉はだれしも心当たりがあるんではなかろうか。
不幸に陥ったときに振り返る、なんでもないような日常が
いかに幸福だったのかという後悔。
なんの価値もないと思っていた、平凡な日々が黄金だったと
気づくのは逆境の最中だ。

現在、私は健康でこれが当たり前だと思っている。
朝起きて、「体よ、健康でありがとう」とはまったく思わない。
これが当たり前だ。
でも、高熱を出すとなんでもない健康だった頃が、いかに価値があったのか
わかってくる。
全身が麻痺していて起き上がれないこと数年の人の意識が私の体に入ったら、
飛び上がって涙を流して喜ぶだろうけど、私にはなんの感慨もない。
幸福は当たり前に感じるものだ。

なのでショーペンハウアー先生は処世術として、
いかに幸福になるのではなくて、いかに不幸や苦痛を避けられるかに
主眼を置いた生き方をすすめた。
それは幸福は蜃気楼だけど、不幸はリアルに襲ってくるものだからだ。

欲望はとどまることを知らないというけれど、
それは、あんなに切望していた欲望を叶えても、
だんだんと当たり前になっていき、もっともっとと
さらなる欲望に駆り立てられるからだ。
だから、幸福を目指すということは、終わることがない。
なぜなら、幸福には実体が無いからだ。

中には、「ああ、幸せだ」という実感を伴う幸福感もある。
でもそれは、大きな不幸があるという前提がないと実現しない。
冷たい雨に打たれて凍死しそうな人が、暖かい室内に入った時や
激しいストレスのかかる仕事から解放されてむかえる休日や、
お腹が空いて死にそうなときの食事など、
大きな苦痛が無くなるということが幸福感として実感される。

これを見ると「絶対に幸福になる方法」が浮かび上がってくる。
運動と休息を繰り返すインターバルトレーニングのような方法で、
幸福は実現できる。

不幸からの解放が幸福だ。

たとえばケトルベルトレーニングは充実感(幸福感)がある。
重りを振っている間は苦しい。
プレスでは「うーっ!」と私は苦しそうな声を上げて重りを押し上げる。
でも、終わるととても幸福なのだ。
日常生活では経験できない苦しみからの解放が幸福感に繋がる。

ずーっと家族に囲まれて生きていたら、それはいて当たり前だと思うけれど、
離れて寂しさを感じると、家族がいる幸福感が生まれる。

清貧であることが幸福であると古人は口を揃えて言っている。
それは不幸な状況が日常であればあるほど、ささいなことが幸福に感じるからだ。

逆に、なんでも思い通りになる王者には幸福は存在しない。
不幸も幸福もない空虚な世界に生きることになる、

たとえば、ありとあらゆる物質を手に入れて、
しかもアメリカの大統領になったドナルド・トランプと、
日本の地方に住む、ただの平の会社員である私と、
資産の格差を数値化すると、おそらく何億倍もの差があるだろう。
ハッキリと富者と貧者であるとだれもが結論づけるだろう。
でも、日常で感じている幸福感は、それほど変わらない。

もしも私がドナルド・トランプになって、これが貴方の持ち物ですと
資産を渡されたら、当初は舞い上がるだろうけど、
いずれそれが当たり前になって、もっと違う物を求めるようになるだろう。
それが幸福の性質であり、得られないものを求めて右往左往するだろう。

なんでもない退屈な日々を送っていて、幸福になりたいと思ったら、
自らを苦しめて、そのあと解放感を楽しめばいい。
その手段は、運動でもいいし、サウナでもいい。
もし日々の仕事が嫌な人がいたら、実はそれが休日の幸福感の
源泉であることを理解したらどうだろうか。
「毎日が夏休み」が理想で、宝くじが当たったら南の島でバカンス三昧
というのは、だれが聞いても納得する幸福感のある夢想だけれども、
実体、やってみると退屈感しかないだろうと思う。
なぜなら、幸福を支えるリアルな不幸が無いからだ。

それを考えると、幸福を求めるというのは
馬鹿げた目標であることがわかる。
不幸や苦しみが無くても成り立たないからだ。

やはりもっと別の目標がいる、と思う。

ショーペンハウアー先生の著書。
かなり私のような庶民にもわかるように、本来の
ショーペンハウアー先生のレベルを下げて書かれているので、
わかりやすい。
私の座右の書を一冊選ぶなら、これ。(残念ながら)

幸福について―人生論 (新潮文庫)
ショーペンハウアー
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Category: ヨガ的かんがえ, 読書

- 2016年11月10日

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