プリズナートレーニングと「正しい努力」

ポールウェイドさんという元囚人が書いた
トレーニングの本がある。

彼が弱肉強食のアメリカの監獄の中で
自分が餌食にならないために研究し、実践した
自重トレーニングのマニュアルだ。

古代から伝わる自分の体重を利用した鍛錬法「キャリステニクス」
それはバーベルやマシントレーニングが盛況を誇る塀の外ではほぼ滅んだ。
しかし、監獄の中で、囚人から囚人へ自分の身を守る真の強さを得るために伝えられてきた。

ポールウェイドは、長い監獄生活の中で徹底的にキャリテニクスで体を
鍛え上げ、さまざまな文献を研究し、他の囚人をコーチし、
独自の「コンビクトコンディショニング」(囚人トレーニング)を編み出した。

それが「プリズナートレーニング」だ。

はっきり言おう、これは名著だ。
名著というのは、他の本を焼いてしまう。
つまり、この本があれば有象無象の書いた中途半端な
トレーニングマニュアルはいらない。
すべての人にとって、この一冊だけで肉体のトレーニングはOKだ。

ここまで言ってしまう私だけれど、いままで
自重トレーニング(キャリステニクス)を軽視していた。
それは腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットなどの基礎体力を養うもので、
それである程度の筋力はついても、あくまで持久力が鍛えられる
ので「強く」はならないと思っていた。
中学生が部活でやるものだったり、非効率的な根性主義の
昔ながらのやり方だと思っていたのだ。

しかし、それは大間違いだった。

私が知る自重トレーニングとは、ほんとうに初歩的なものばかりで
体を鍛えるためには闇雲に回数を増やすしかなかった。
でも、ポールさんの自重トレーニングには「道」があるのだ。
「正しい努力」があるのだ。

余談だけれど、
私は幅広いものに興味があって、仏教やら肉体トレーニングやら健康法まで
興味の赴くままに探求している。
でも、わからないままのことも多い。
たとえば、仏教には涅槃へ続く八正道という8つの実践がある。
その中に「正しい努力」という項目があるのだけど、
自分の中では、なにが正しい努力なのかの基準が今ひとつハッキリしなかった。

でも、まったく分野違いで、仏教徒でもない元囚人のポールさんの
トレーニング体系から、正しい努力ってコレ!という理解を得ることができたし、
「道」ということも理解できた。

それを今から説明していく。

ポールさんの囚人トレーニングには、求める結果がある。
それは「鉄の手錠を壊したり、鎖のようなフェンスを破ったり、
レンガでできた壁を叩き壊し、そこから大きな塊を取り出して
細かく割ってしまう類のパワー」
「弱肉強食の監獄の中で、サバイバルするためのパワーと大きな体躯」

これがゴールになる。

さて、このゴールに辿り着く囚人トレーニングとはどのようなものだろう。
どんな過酷で超人的なトレーニングメニューが待っているのだろうと想像する
だろうけど、これが拍子抜けする。

「押す力」を例にとると、ポールさんはこの壮大な目標に向かうために
まずは「ウォールプッシュアップ」をしろ!という。

壁にむかって立って、壁を使って腕立て伏せをするのだ。
はっきりいって「誰にでもできる」簡単な筋トレで、
普段、ケトルベルで鍛えている私は正直、簡単すぎてやる気がしない。

しかし、キャリステニクスに入門する人はここからはいるのだ。
正確のフォームで、ゆっくりと、関節も同時に鍛えていく。
そして、1ヶ月してウォールプッシュアップが上級者のレベルに達したら
次に、もう少し難しい机のへりをもった腕立て伏せを1ヶ月、
それがクリアできたら、膝をついた腕立て伏せに入る。
そうやってステップアップしていって、
なんと普通の腕立て伏せにたどり着くまでに、5ヶ月もかける!
でも、そこでストップではなくて、さらにそこから5つのステップを
踏んで、最終的には片手で腕立て伏せができるようになる。

私は普段からケトルベルで1年以上鍛えて、痩せマッチョ体型で、
ヨガなどの自重トレーニング歴は10年以上になるから、
ポールさんの言うことを聞かずに、いきなりステップ5の
フルプッシュアップ(腕立て伏せ)からトレーニングをしてみたけれど、
正確なフォームで、しかも下ろすのに2秒、下ろしてから1秒静止、上げるのに2秒、
あげてから1秒静止で、1回の腕立て伏せに5秒かけるスローペースの腕立て伏せが
こんなにキツいとは思わなかった。

上級者の基準だと20回を2セットだけど、1セット1分40秒かかる。
腕立て伏せ20回なんて楽勝という人も多いだろうけど、
2セットするのに、3分20秒もかかる腕立て伏せは、けっして楽勝などではない。
中学の部活の時みたいに、適当に1、2,3,と不正確なフォームで手早く20回
やるのとは天と地ほどの差がある。

話は逸れたけれど、つまりポールさんの囚人トレーニングには、
求める明確な結果基準があり(監獄でサバイバルできる体躯)そして、
そこにたどり着く明確なステップ(道)がある。
最初はだれでもできるバカみたいに簡単なトレーニングから、
だんだんと高度になっていき、最後はほとんどの人ができない基準まで
たどりつく。

求める結果が明白で、そして、そこにたどり着くための明確な道があるのだ。
この道からそれない努力、それが正しい努力だ。

これはなんにでも応用できる。
たとえば、私は現在ヴィーガンだけれど、
まったく動物性の食品をとらないというところまで、
無意識に道(ステップアップ)を歩いてきた。

最初は、野菜を多く食べるくらいだった食生活から、
肉が消えて、魚をメインに食べるようになり、
そこからヴィーガンになったので、ストレスはほとんどない。
でも、肉食からいきないヴィーガンになると体がびっくりするかもしれない。

ヴィーガンを目指す人は、

1,野菜を多く食べるし、肉も食べる。

2,肉の量を減らす。

3,肉の日よりも、魚の日を増やす

4,ほどんど肉を食べない、魚をメイン料理にする

5,魚しか食べない

6,魚も食べないヴィーガンの日を週に1日つくる

こうしてヴィーガンの日をすこしづつ増やして、
自然とヴィーガン化できる。

仏教では、アーナパーナサティという瞑想の道が伝わっている。
それは最初は呼吸をシンプルに意識すること(だれでもできる)から
はじまって、体の感覚、心、とだんだんと瞑想の対象が高度になって、
最終的には涅槃に至るというメソッドになっている。
つまり、一つ一つのステップを丁寧に積んでいけばきちんと
悟りに達するようになっているのだ。
(何故、おまえはアーナパーナサティの体系を知りながら、正しい努力が理解できなかったんだ?
というツッコミは勘弁してください)

どんな不可能に思えることでも、具体的な到達目標と、
そこに至るまでのステップアップする道筋があって、
その道にむかって正しく努力するならば、到達できると
ポールさんにはトレーニング以外のことも教えていただいた。

人は何かに挑戦する時、高い目標を立てる。
でも、それに至る小さなステップを考えることをしない。
だから挫折する。

私は人生でいろいろと実現したい目標があるけれど、
この道方式に気づいたことで、ぐんと実現に近づいたと思っている。

 

 

追記

「プリズナートレーニング」の表紙は、板垣恵介先生の書いた
マッチョマン、ビスケットオリバだけど、私的には
キャリステニクスで作られた体はギリシャ神話にでてくる神々の
ようなナチュラルで強靭な体だとおもう。

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Category: ケトルベル, プリズナートレーニング

- 2017年8月20日

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