東洋的パワーポーズ立禅

姿勢を良くしなさい、というアドバイスは昔から言われてきた。
古い知恵を新しい視点から捉え直した本がある。
エイミーカディさんの「〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る」だ。
この本の重要点は「パワーが感じられる姿勢をすることによって
実際に心もパワフルに変わる」ということ。
とりあげられているポーズはいろいろあるけれど、
一番わかりやすいのは「ワンダーウーマンのポーズ」
軽く足を開き、手を腰に当てて、胸を張る。
スーパーマンもよくやるポーズだ。
これをすると、実際に自信が湧いてくるそうだ。

しかし、問題点があるとすればこんな姿勢は人前では
できないということだ。
例えば待ち合わせで、先にきていた人が
このポーズで待っていたら「あっ、なんか怒っている?」と
思うだろうし、日常的に暇をみつけてはこのポーズをしていたら
威張っているようにも見える。
影でこっそりとポーズをとるしかない。
要はこれらのパワーポーズは、無作法だったり威圧的だったりする。
パワーポーズの一例があるけれど、日常的に使える姿勢がない。

haipower
上がパワーポーズで、下が力無い姿勢。

西洋的な体の使い方で、パワーポーズというとこういう感じになって
しまう。

西洋的な体の使い方は「胸を張る」
肩を上げて、重心を上にあげるみたいなところにある。
いい姿勢というと、軍人さんのように
胸をはって、ビシッと立つのがいい姿勢になる。

しかし、東洋的ないい姿勢は違う。
西洋が「胸」と中心としているのなら、
西洋は「腹」を中心としている。
わかりやすくいうと、西洋的ないい姿勢をとると
一番胸の感覚が感じやすい。
東洋的な姿勢だと腹の感覚が感じやすくなる。
意識しやすい場所がそれぞれ違うのだ。

東洋的ないい姿勢。

肩の力を抜く
胸は張らない
背中の力を抜く
背骨は長い状態にしておく
ようは自然と腹式呼吸になる姿勢だ

リラックスしているけれど、中に一本、芯が通っている姿勢。
坐禅。
剣道。
茶道。
弓道。
東洋的パワーポーズはすべてに共通している。

東洋的なパワーポーズが体現しているのは、
「和して同ぜず」だ。
リラックスと安定を兼ね備えた姿勢は、
威圧感はないけれど、秘めた強さは感じられる。
周囲と調和するけれど、決してバランスは失わない。

もしも私が侍が闘う小説を書くとしたら
弱い侍は歩く時は大股でドスドスと音を立てて、
いかにも強そうに騒がしく歩くように書くだろう。
強い侍は、足音を立てない静かで柔らかい体使いで
歩くように書くだろう。

東洋には素晴らしい身体遺産があり、
これは絶対に失ってはいけないものだ。
もしも、エイミーさんが東洋人ならばパワーポーズとして
紹介する姿勢もまた変わったものになったかもしれない。

東洋的パワーポーズといえば、
いまでは気功の1つになっている立禅という
じっと立つ気功法がある。

これはリラックスしつつ、しっかり芯のある姿勢を
維持するもので、同じ姿勢のまま長い時間じっとしている
というものだ。

これはもともと「意拳」という近代に生まれた
革新的拳法の鍛錬法が、気功化したもので
驚くべきことに意拳は、この「じっと立つ」という
トレーニングを中心の武術なのだ。
筋トレもしない、型を演じることもしない。
ただじっと立つ、ゆっくりと歩くなどの鍛錬で、
達人を輩出している名門だ。
旧来の武術は「動きまわること」が鍛錬のメインだけれど、
意拳を創設した天才王向斎は、本来流派の秘伝である「站樁功」という
じっと動かない鍛錬をメインにすえてしまった。
「動かないこと」という、コペルニクス的転回。

基本的かつ根本的な「正しく立つ」という能力を
極限まで磨く。
心が動揺し、思考能力が激しいストレスで奪い去られる
実戦でも、意拳の拳士の体は構造的に正しい姿勢が保たれる。
それが強みになる。
東洋的パワーポーズが骨の髄まで染みこませることが
この武術の強みの一端であるといえる。

正しく座ることは、坐禅(座る瞑想)で養える。
正しく立つことは立禅で養える。
でも、この2つの胴体にたいする要求は共通している。
坐禅できる人は立禅もできるし、その逆も同じ。

この本を要約するとしたら、
「姿勢は大事!」に尽きる。

 

 

〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る (ハヤカワ・ノンフィクション)
エイミー カディ
早川書房
売り上げランキング: 1,986

Category: 体を変える, 立禅, 読書

- 2016年8月22日

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