オデュッセイア

 

ナチュラルボーンヒーローズでたびたび取り上げられいた
古代の英雄オデッセウス。
読書家を自称しているけど、
現代まで伝わる英雄叙事詩「オデュッセイア」を読んだことがない。

いや、古典をどれくらい読んでいるかというと
「ほとんど読んだことがない」というのが現状。
なんとなく、古典なんてものは
古臭くて読んでも無味乾燥なんだろうと敬遠していた。

オデュッセイアを読んでみて驚いたのが、
「読みやすい、、、!」ということ。
そして、登場人物が生きていること。
たしかに回りくどかったり、
この人誰?みたいに登場人物が多かったりするけど、
何千年もの古さをまったく感じさせない。

これってもしかして近代に書きなおされた作品?
と疑うけど、ガチな著作を出版している岩波文庫なのだ。
日本語の語彙は変えるだろうけど、原作を改変する訳がない。

オデュッセイア、まだ途中だけど時代が違いすぎて
斬新なことが結構ある。

英雄叙事詩ということで、いわゆるヒーロー物の原型だと
思うんだけど、主人公のオデッセウスが新鮮だ。

泣く

最近のヒーローは涙を見せない。
でも、オデッセウスは神に冥界に行けと言われると、
涙を流して嫌だァという。
かなり簡単に心が折れる人だ。
魔女に捕まって故郷に帰れない境遇になると、
毎日涙を流して海を眺める。
現代の感覚だと「泣き虫」なのだ。
古代の人びとはとても素直な感情表現を
して生きていたのかもしれない。
トロイの木馬作戦のことを語ったくだりを読むと、
木馬の中で泣いてなかったことが褒め言葉になっている。
裏をかえすと、木馬にいた兵士のほとんどが恐怖で泣いていた
ということになる。

肉食

そして、登場人物のほとんどがよく肉を食う。
肉が主食か?と思うほど肉を食う。
読んでいると肉が食べたくなるほど肉ばかり食べている。
これは観客サービスなのだろうか?
「やっぱりオデッセウスはいいもん食ってるなぁ」という
グルメ番組的な要素もあったのか、
本当に古代の英雄たちは肉が主食だったのか、謎だ。

肉体の強さアピール少ない

この要素が強調されている場面は少ない。
円盤投げをして、だれよりも遠くに投げて
人びとから驚かれている、みたいな描写しか
印象にない。

 

すぐ神様に助けてもらう

この時代は人と神が共存していた時代で、
オデッセウスはことあるごとに神様に助けてもらう。
いろいろな神様に翻弄され、神様に助けてもらう。
上司と部下の板挟みになる中間管理職のようなオデッセウス。
いや、良く言えば
人間の領分で生きている、という感じがする。
現代は神亡き世界で生きている人が多い。
自分で全部決めないといけないと孤独に邁進する。
オデッセウスは優れた能力を持ちながらも
神に祈り助けを求めて、危機を乗り切る。

要領がいい、ペラペラ嘘をつく、知略に満ちている

読んでいて呆れるくらい複雑な嘘をペラペラとつく。
あるいは、危機を知略で乗り切る。
神様からも「おまえほど悪知恵が働くものは神にもいない」と
言われるほどの策略家だ。
けど、悪人ではない。
故郷に帰るという目的のためにあらゆる手段を使うのだ。
そしてこの人、ほとんど強面の交渉はしない。
「あなたの膝にすがらせてください」という言葉を何度も
耳にするほど下手にでる人だ。

オデッセウスの印象は、
「したたかだけど、どこか憎めないおっさん」だ。
でも、これがリアルな英雄の姿なのかもしれない。

現代のヒーローは、すぐに戦う。
それは話を面白くするためにしょうがないことなんだろうけど、
リアルに考えると、非効率的で破滅の道だ。

オデッセウスは、無益な戦いを避ける。
まずこの人は、人や神を味方につけようとするし、
かなりの割合で、そこかしこで歓迎されて接待を受ける。
人や神に愛される人なのだ。

戦いが避けられなくなって、
オデッセウスよりも肉体に勝る者が前に現れたら、
オデッセウスは知略の限りを尽くして、勝つだろう。
知略の影に隠れているけど、肉体も相当に強いから
その相乗効果でオデッセウスに勝るものはいない。
困ったときは神様もついている。

あらゆる策を練る策略家であり、
感情豊かで人から愛され、強靭な肉体を持つヒーローで
ありながら助けられることをいとわない。

あんまり子供には参考にしてほしくないけど、
現実的に世の中をすいすい渡っていくにはオデッセウスの
ような人なんだろうと思った。
オデッセウスは専門バカじゃないのだ。
肉体だけ、頭脳だけ、愛嬌だけ、ではない。
ダ・ヴィンチが芸術と科学の万能の天才ならば、
オデッセウスはサバイバルの万能の天才なのだろう。

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ナチュラル・ボーン・ヒーローズ―人類が失った

 


Category: 読書

- 2015年10月11日

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