第27回

禅僧犬

ある日のこと、リクと近所の山に、

ダイエット登山散歩、という私が開発した

スペシャルメニューをしに行きました。

登山するような山ではないため、林業関係の

軽トラくらいしか通りがからない山道です。

歩行者など皆無なので、法律違反と知りつつも、リクの

綱を外して、自由に歩かせてやることにしました。

リクは杉の匂いを嗅いだり、竹林を走ったりと、

本当に幸せそうです。

山道を昇ったり降りたりと、私の思惑どおり、

勝手に激しく運動してくれます。

「ふふふふふ、走れ走れ、そして痩せろッ」

と私がハアハアいいながら笑っていたとき、

事件は起こりました。

前方から、綱に繋いでいない柴犬と飼い主さんが、

下山してくたのです。

＜こんな山道、だれも歩いていない＞ということで、放し飼い

散歩しているアホな飼い主同士が、偶然に遭遇したわけです。

柴犬くんは、リクの姿を確認すると、

＜ガルルルルルル！！＞

と激しいうなり声を上げて、走ってきます。

「や、ヤバイ！」

と思ったときには、ヘラヘラしているリクが

ガブッと首筋を噛まれました。

リクは体をでかくて、よく凶悪に唸るラブラドールなんですが

喧嘩はさっぱりです。

もう噛まれ放題で、私と柴犬の飼い主が引き離すまで、

おろおろと困っていました。

「大丈夫ですか！申し訳ない！」

と柴犬の飼い主のおじさんが謝ってきましたが、

こっちだって、放し飼いで散歩していた身です。

謝られる筋合いはありません。

傷を確認すると、まったく無傷。

頑丈な奴です。

しかし、山道でいきなり襲われた心の傷は深いらしく、

シッポはさがり、なんとなく横腹を私の膝にあてて、

ハアハアいっています。

「もう帰ろうか、、、、」

なんだかリクがかわいそうになってきました。

帰ってジャーキーでも食わせてやろうと思いました。

が、リクは1分ほど歩いて、杉におしっこを

かけたり、草の匂いを嗅ぐと、

すぐにヘラヘラしだした。

シッポはブンブン振っているし、
もう完全復活です。

もう私はビックリしました。

禅僧みたいな奴です。

リクのスタイルは、

今をひたすらに楽しむです

1分まえの悲劇など、すこしも引きずっていないのです。

なんだか、凄い奴だな、おまえ。

修行を積んだ禅僧が到達する境地に、いとも簡単に

たどり着いた訳です。

南無南無



というか、

リク！おまえ、アホだろ？

アホの坂田でも、もう少し賢いぞ！

という、つっこみも湧いてきます。

うーん、アホだから、叱っても叱っても、

イタズラが治らないのか？！

、、、、、偉いのかアホなのか、微妙な奴です。





表紙へ
目次へ