リクの緊急事態
遠い昔、武術の先生から聞いた話。
咄嗟のときの反応で、その人の実力がわかるという。
具体的に書くと、
何かあったときに、アッ、と驚いて、腰が浮くのが普通の人。
サッと腰が低くなり、万全の体勢を反射的にとるのが武道家。
どうしてこんなことを書くかというと、
このまえ、リクの身に
びっくりすることが起きたのです。
それは雪の日の出来事でした。
夜中に凍った雪を踏みしめながら、リクと散歩していました。
リクの足が凍傷になるんじゃないか?と心配なくらい寒い夜。
私は、ひたすら体を縮めてトボトボ歩いていました。
そんなとき、ズボッ!という音とともに、
リクが消えました。
「んん!?」
とリクを探すと、
リクは雪の積もったドブの溝の上に乗っかってしまったらしく、
豪快にドブの溝に落下し嵌っていました。
落下したリクは、まるで動きません。
普通は、溝から脱出しようともがくはずです。
もしかして、足が折れたのか!?
それで動けないほど重傷なのか!?
私は急激に心配になり、ただただ、リクを見守っていました。
リクも私を見ています。
その表情は、実にスッキリしています。
しばらく飼い主と飼い犬は、見つめ合ったのでした。
ふと、私はリクの表情が読めました。
<兄ちゃん、ぼく溝に落ちたよ、助けなよ>
そんな顔です。
私は、怪訝な顔をしてリクに近寄ると、雪に埋まって
いるリクのうえにかかっている雪を払いました。
そして、少し引っ張りあげるようにすると、リクが
ようやく足をバタバタともがいて、溝から脱出したのでした。
リクはまったく動じず、ひたすら助けを待つ
という感じで、緊急事態を乗り切ったのでした。
武術の先生、こんな動物はいかがなものでしょうか?
これが犬っている生き物なんでしょうか?
それともリクは頭がお○しいのでしょうか?