4月28日
ナヌークの贈りもの
最近、凄い写真家さんを知りました。
その方はアラスカや北極の動物を
とり続けた写真家、星野道夫さんです。
今回はその星野さんの絵本の紹介。
私は動物の写真が大好きで、とくに好きなのは、
星野道夫さんの撮ったシロクマの写真。
「アラスカ永遠なる生命」という本の表紙に
シロクマの写真があるのですが、
その哲学者のような、知性を感じさせる穏やかな
横顔には痺れます。
星野さんは、とくにシロクマに思い入れがあるようで、
一冊の絵本を書きました。
それが「ナヌークの贈りもの」です。
少年が、オーロラの下、ナヌーク(シロクマ)の言葉を
聞くという話。
深くて哲学的な絵本です。
<人間は世界を優しく結びつける言葉を忘れてしまった。
我々の耳には、もうなにも聞こえてこない>
ナヌークが少年に語る生命観は、ふとすると忘れそうになる
大切なことを思い出させます。
<少年よ、わたしたちはアザラシを食べ、アザラシは魚たち
を追い、魚たちは海の中の小さな生き物を口にふくむ。
生まれかわっていく、いのちたち>
<われわれは、みな、大地の一部。
おまえがいのとのために祈ったとき、
おまえはナヌークになり、
ナヌークは人間になる。
いつの日か、わたしたちは、
氷の世界で出会うだろう。
そのとき、おまえがいのちを落としたとしても、
わたしがいのちを落としたとしても、
どちらでもよいのだ>
死ねば、体は有機物に変わり、虫に食われ、微生物に分解
されて土に還る。そこから、また新しい命が生まれる。
自分の体を考えると、たかだか28年の歴史しか持たない
ように感じますが、何千回も死んで、何千回も生まれて、
草や虫や動物の命が合わさり、たまたまここに自分という
意識をもった命があるだけのような気もします。
「ナヌークの贈りもの」は、いろいろと考えを改める
きっかけになりました。
星野さんの文章は、アラスカの自然のなかで生まれたものです。
お父さんの文によると、最初に書いた文章は、
観察記のようのものだったそうですが、アラスカで何ヶ月も
動物を追って生活しているうちに、だんだんと哲学的になり、
「ナヌークの贈りもの」のような名作を生み出すことに
なるのです。
この絵本を出版した年、星野さんはカムチャッカ半島で就寝中、
ヒグマに襲われ亡くなりました。
<おまえがいのちを落としたとしても、
わたしがいのちを落としたとしても、
どちらでもよいのだ>
星野さんの死に顔は非常に穏やかだったそうです。
戻る
バックナンバー