週刊リクニュース


10月27日
筋肉物語


これは、筋肉の真実の物語である。

ある時期、本気で筋肉していた私の物語。

題して、筋肉物語。

始まりは高校時代にまで遡る。

その当時、私は世界最強を目指していた。

そのために、私は体を鍛えることに全力をつぎ込んだ。

プロレスラーがスクワット1000回していると聞けば、

同じようにやってみたり(1度だけ1000回できた)

本を買ってきて、友人と二人で

ウエイトトレーニングに取り組み。

極真館の空手虎の穴、若獅子寮の練習風景の

ビデオを借りてきて、

「セイヤー、セイヤー」

それを真剣なまなざしで、ああ、おれも入りたい、

と見つめたりと、

それはそれは今思い返せば、

なんて無駄な、と後悔できる青春時代。

いや、しかし、そんな狂気の時代の産物として、

私のなかにある程度の筋力が蓄えられた。

寝転んで、腕と大胸筋の力でバーベルを上げる、

ベンチプレスは19歳のころ、最高90キロ。

体重が55キロしかないので、

なかなかやるじゃない、自分、と密かに思っていた。







そんな、ある日、ダイエット作戦中の先輩が

「寺井のクアハウス行こうよ」と言ってきた。

なんでも、クアハウスとは言うが、

バーベルやランニングマシン完備で

スポーツクラブのようなところだという。

<どうやら、おれの凄さを見せるときが来たようだな>

と内心、ウキウキで行ったのです。

ランニングマシンで汗を流し、体が温まったところで、

「あっ、バーベルあるんですね、少ししてみようかな。」と

突然、思い立ったかのように、

先輩を引き連れて

ベンチのところまで行ったのです。

(最初から、目的はベンチじゃい!)










そこには40キロのバーベルがさがっていた。

私は、それをベンチプレスで4.5回上げ下げした。

「おおっ!凄いじゃん、リク兄君!」

「いやー、19歳のころは90キロくらい上げて
ましたから、エヘヘ」

気持ちよく自慢し、

「じゃあ、すこし重くしてみようかな」

と30キロ一気に足して、

70キロにチャレンジすることにしました。

「こんなの絶対あがらないよ!大丈夫なの!?」

とビックリする先輩を後目に、私は台に寝そべり、

不敵に笑いました。

(最高記録には20キロほど足りませんよ、フフッ)

さすがに70キロは、バーをもっただけで、そのガッチリ具合が

違います。

歯を食いしばり、バーベルを金具から外し、ゆっくりと

自分の胸の上あたりまで降ろしてきます。

す、凄い重さだ!

ここから、筋力で上まであげて、金具に


バーベルを置けば完璧です。


「ふんんんんん!」


バーベルがジリジリと上がりました。

が、私の心境がだんだんと

変化していきます。

さっきまでの強気は吹き飛んで、バーベルがピタッと

なんとも苦しい位置で止まった!









「タスケテ!」











小声で、先輩に言いました。

「ええっ!!?何、リク兄君?!」

「無理!!タスケテ!」と叫ぶ私。

「えええっ!?」とビックリして、

バーを上げる手伝いをする先輩。

ランニングマシンをしていた方々も、「えええっ!?」という

顔で救出される私を見ていたような気がする。

かくして、リク兄株は次の日から大暴落を迎え、

一部の人たちの笑いの種になったのでした。

なんたる無惨。

9年の歳月がいかに人を衰えさせるか、

子供の語るのに最適な、無情な筋肉の物語はこうして幕を閉じるのです。



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